【swear an oath to】
随分暖かくなってきたとはいえ、まだ肌寒さが残っている季節。
そんな季節の変わり目に、JDGが誇る隊長の石川は誕生日を迎えるのである。
イベント事に疎く、自分の誕生日を何時も忘れてしまう石川。
そんな石川とは対照的に、隊員達は一斉に石川を祝うのだ。それはもう毎年恒例の行事と化し、一種のお祭りみたいな感覚と云っても過言ではないであろう。
そうなると少し淋しい思いをする人物がいる。それは、隊長の補佐官でありSPたる岩瀬であった。
石川に強烈な一目惚れをした岩瀬。押しかけ女房よろしく石川のSPへと落ち着き、あまつさえ恋人と云う位置にも付いている。
そんな岩瀬ではあるが、幾ら淋しい思いをしていたとしてもそれを口にする事はない。
何故なら、隊にとって石川が否に重要かつ、隊員達に慕われている事を知っているから。
時に良からぬ思いを抱き石川に近づく者も居るが、それは番犬らしく一睨みで牽制を掛けている。
それより何より、その人間離れした能力により、石川に無くてはならない存在だと云う事を知らしめているのだ。
そんな二人はまるで一対の絵のように考えられているのだろう。
その証拠に、石川が一人で居ると岩瀬はと云う声が掛かり、岩瀬が一人で居れば石川はどうしたのかとの声が掛けられる事がしばしば。
それはそれだけ二人が自然であると云う証拠。
そんな二人が恋人同士であると知っているのはさほど多い人数ではないのだ。
「悠さん、ちょっとお疲れ気味ですか?」
そんな言葉を掛けてきたのは、一日の勤務を終え、誰にも邪魔されない部屋へ戻った時の事。
ネクタイを外すと共に零された溜息に気付いた岩瀬の言葉であった。
「いや、大丈夫だよ」
「そうですか?悠さんの大丈夫は信用できない時があるからな・・・」
「くすくす。本当に大丈夫だって。本当にお前は心配性だよな」
「それはそうですよ。だって、悠さんの心配をするのは俺の特権ですから♪」
それは隊員達の前では決して見せない姿だと知っているから出る言葉。
岩瀬の強い希望で同室になった当初には、こうした姿を見る事が出来なかった。
裏を返せば、部屋に帰っても気を抜け切れていなかったと云う事。
それなのに、今では自然にそうした姿を見せてくれる。その事が岩瀬は何よりも嬉しいのだと云う。
「ああ、そうだったな」
「そうですよ。悠さんは何時だって無理してしまいますからね」
天候不順の為か遅れ気味だった桜が散り始めた頃からやたらと忙しくなり、あちらこちらへと飛び回っていた。
毎年の事ではあるのだが、もうすぐ来る誕生日さえ抜け落ちてしまう程、石川は常に隊の事を考えているのである。
そんな石川だからこそ、隊員達はこぞってお祝いをしたいと考えるのだ。
それも普段と雰囲気を変えずに準備をするものだから、石川は毎年驚かされていると云っても良いだろう。
それでも、少しは気付く余裕があっても良いのにと岩瀬は思う。
岩瀬の一番の理想は、大切な人の誕生日を二人っきりで祝う事。
しかしそれが出来ないと判っているから、誰にも邪魔されない二人っきりの時間だけは少しでも多く甘えて貰いたいと思うのだ。
「無理をしているって云うけど、それなら岩瀬も同じだろう?」
「俺は全然してませんよ?」
「そうか?」
「ええ。もしかして、俺、そんなに疲れたように見えます?」
笑顔を浮かべながらも少し疑わしげに聞いてくる石川に笑顔で応えながら、岩瀬は少し小首を傾げながら応えてくる。
「いや、見えないよ」
「だったらどうして?」
「それはお前が云ったからだろ?」
「えっ?」
益々訳が判らないとばかりに疑問符を浮かべる岩瀬。
そんな岩瀬をクスクスと笑いながら眺め、石川は言葉を紡いで行く。
「俺とお前は何時も一緒だろ?だからだよ」
「悠さん・・・俺、嬉しいです・・・」
「おい、岩瀬?」
「だって、俺の心配をしてくれてるんですから・・・」
仄かに頬を朱に染めながら答える石川をそっと抱き寄せ、岩瀬は幸せそうな微笑みを浮かべながらさらに言葉を紡いでいく。
「でも、俺は大丈夫ですよ。こうして悠さんが俺の俺の腕の中に居てくれますからね」
疲れなんか一発で吹き飛ぶんですと、石川の頬をさらに朱に染め上げる言葉をその耳元で囁いてくる。
「バッ///またお前は・・・」
「だって、本当の事ですから・・・」
「岩瀬・・・ありがとう、俺も同じだよ・・・」
恥ずかしがる恋人をその腕に抱きしめながら、全てを包み込むような優しい眼差しを見せてくる岩瀬。
その疲れた身体と心を癒してくれる暖かな温もりに包まれながら、石川もまた優しい眼差しを返しながら、だからそう心配するなと返してくる。
そんな恋人にもう一度微笑みを浮かべながら、岩瀬はそっと優しい微笑みを浮かべるその唇に己の唇を重ねていく。
「ねぇ悠さん。今度の休みは二人で出掛けませんか?」
「ああ、別に良いけど・・・何かあるのか?」
「はい、見せたいものがあるんです」
「見せたいもの?」
「ええ、でも今は秘密です。知っちゃうと楽しみが減っちゃいますからね」
愛おしさを伝えるだけの優しい口づけを送った後、岩瀬はそんな言葉を口にする。
その表情は悪戯を思いついた子供のようだと思いながらも、石川は同意の言葉を口にするのである。
「判った、楽しみにしているよ」
「ええ、きっと気に入ってくれると思います」
もうすぐこの愛しい人の誕生日がやってくる。
本当は今のように幸せな時間を二人だけで共有したいけれど、みんなの笑顔で元気になれると云う愛しい人を祝いたいと云う皆の心を無駄には出来ない。
その代わり、翌日取った休みは誰に邪魔される事なくお祝いを云おう。
「Happy Birthday Haruka.I promise love of eternity」
そう、石川の誕生花である天竺葵とも呼ばれるゼラニュウムの花や、矢車菊が咲き誇る野でのんびりと過ごしながら―――
2007.04.16 UP